「また子どもがスマホをいじっている…。これって依存症なの?」
「宿題は終わったの?」と声をかけても反応が薄く、食事中もスマホを手放さない。「あと5分だけ」と言いながら1時間が経過し、夜遅くまで画面を見つめる子どもの姿に、不安や焦りを感じていませんか?
お子さんのスマホ利用時間が増え、勉強や家族との時間が減っていることに心を痛めている保護者は年々増加しています。内閣府の「令和4年度青少年のインターネット利用環境実態調査」によれば、小中学生のスマホ所有率は年々上昇し、利用時間も長時間化していることが報告されています。
「友達はみんな持っているから」「勉強にも使うから」と始まったスマホ利用が、いつの間にか生活の中心になっていく様子に、多くの親が頭を抱えています。夜遅くまで動画を見たり、ゲームをしたり、SNSに没頭したりする姿に心配になる保護者の方は少なくありません。
「厳しく制限すべき?」「見守るべき?」「これは単なる現代の遊びなのか、本当に心配すべき状態なのか?」—親としての正しい判断が難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事で分ること:子どものスマホ依存の兆候を見分けるためのチェックリストと、家庭で実践できる具体的な対策法をご紹介します。専門家の見解をもとに、スマホ利用と子どもの発達に関する最新情報も交えながら、健全なデジタル習慣を育むヒントをお伝えします。
スマホ依存とは?子どもへの影響を理解する

スマホ依存の定義と現状
スマホ依存(インターネット依存・ゲーム依存を含む)とは、スマートフォンの過剰使用によって日常生活に支障をきたす状態を指します。厚生労働省の「ネット依存・ゲーム障害の治療の実態と課題」によると、中高生の約10%が「インターネット依存が疑われる」状態にあるとされています。
特に子どもの場合、自己制御能力がまだ発達途上であることから、大人よりもスマホ依存のリスクが高いことが指摘されています。内閣府の「令和4年度青少年のインターネット利用環境実態調査」では、小学生のスマートフォン所有率は学年が上がるにつれて急増し、高学年では約50%に達するというデータが報告されています。
子どもの脳と発達への影響
子どものスマホ依存が特に懸念される理由は、発達途上の脳への影響が大きいためです。東北大学の川島隆太教授らの「スマートフォン使用と認知機能に関する研究」によると、スマートフォンの長時間使用は、前頭前野の機能に影響を与え、自己制御能力や計画性、共感性などの能力低下につながる可能性があることが示されています。
また、国立成育医療研究センターが発表した「子どもの適切な生活習慣形成等に関する調査研究」では、寝る直前までのスマホ使用が睡眠の質を低下させ、成長ホルモンの分泌に悪影響を与える可能性も指摘されています。
年齢層 | リスク要因 | 考えられる影響 |
---|---|---|
小学生 | ゲーム・動画視聴の長時間化 | 視力低下、睡眠不足、学習意欲の減退 |
中学生 | SNSの過剰利用、比較意識 | 対人関係の悪化、自己肯定感の低下 |
高校生 | 24時間オンライン意識 | 集中力低下、現実逃避、社会的孤立 |
専門家が警告する子どものスマホ依存10の兆候

お子さんにスマホ依存の傾向がないか、以下の10の兆候を確認してみましょう。これらは日本小児科学会の「子どもとメディアの問題に関する提言」や、日本小児精神神経学会の専門家らによって指摘されている主な特徴です。
1. 使用時間の急激な増加
ゲームや動画視聴、SNSの利用時間が急激に増え、1日3時間以上スマホを使用するようになったら注意が必要です。特に、「少しだけ」と言いながら結局長時間使用するパターンが繰り返される場合は、自己制御が効かなくなっている可能性があります。
2. スマホを取り上げると強い怒りや不安を示す
スマホの使用を制限されると、過剰に怒ったり、不安になったり、イライラしたりする様子が見られます。これはスマホ依存の典型的な症状で、禁断症状とも呼ばれます。
3. 他の活動への興味の減退
これまで楽しんでいたスポーツや趣味、友達との外遊びなどへの関心が薄れ、スマホを使う時間だけが楽しみになっている状態です。実体験よりもスマホ内のバーチャル体験を優先するようになります。
4. 睡眠パターンの乱れ
夜遅くまでスマホを使用し、朝起きられない、日中の眠気が強いなど、睡眠リズムが乱れている場合は要注意です。国立睡眠医療研究センターの調査によると、就寝前のスマホ使用が睡眠の質を著しく低下させることが示されています。
5. 学業成績の低下
スマホに夢中になるあまり、宿題や勉強に集中できなくなり、成績が下がる傾向がみられます。特に、スマホを横に置きながら勉強する「ながら勉強」は効率が極めて悪いことがわかっています。
6. 家族とのコミュニケーション減少
家族との会話や共有時間が減り、一緒にいてもスマホを見ている時間が増えます。食事中もスマホを手放せないようであれば、依存の兆候と考えられます。
7. 現実から逃避する傾向
困難な状況やストレスを感じると、現実解決よりもスマホの世界に逃げ込む傾向があります。問題から目を背け、スマホで気を紛らわせようとする行動パターンが見られます。
8. 隠れてスマホを使用する
使用制限を課されると、隠れてスマホを使うようになります。就寝後の布団の中や、トイレなどで長時間過ごす様子が見られたら要注意です。
9. 身体的な症状の出現
長時間のスマホ使用による目の疲れ、頭痛、肩こり、腱鞘炎などの身体症状が現れます。特に「スマホ首」(首や肩の痛み)や視力低下などは小児科医が警告している症状です。
10. SNSでのトラブルや依存
SNSの「いいね」や返信に過剰に反応したり、オンラインでの評価に一喜一憂したりする様子が見られます。友人関係も現実よりもSNS上の交流が中心になっていきます。

スマホ依存度チェックリスト:我が子の状態を確認しよう

お子さんのスマホ依存度を客観的に評価するために、以下のチェックリストを活用してください。これは国立病院機構久里浜医療センターが発表している「インターネット依存症のスクリーニングテスト」を子ども向けに改変したものです7。
各項目について、「1:全くない」「2:ほとんどない」「3:ときどきある」「4:よくある」「5:いつもある」の5段階で評価し、合計点を算出してください。
- スマホを使う時間が予定より長くなることがある
- スマホのせいで家族との時間が減った
- 友達と外で遊ぶよりスマホで過ごす方が楽しい
- スマホを使えないと落ち着かない、イライラする
- スマホの使用を家族に隠そうとすることがある
- スマホのせいで成績が下がった
- 寝る前にスマホを使い、睡眠時間が減った
- 「あと5分だけ」と言いながら、結局長時間使ってしまう
- スマホを使っていない時も、使いたいことを考えている
- スマホの使用を控えようとしても、できない
判定基準:
- 10-19点:健全な使用状態です。適切な利用ができています。
- 20-29点:注意が必要です。使用ルールの見直しを検討しましょう。
- 30-39点:依存傾向があります。具体的な対策が必要です。
- 40-50点:強い依存が疑われます。専門家への相談を検討してください。
家庭で実践できる7つの対策法

子どものスマホ依存を予防・改善するために、家庭で実践できる効果的な対策をご紹介します。
1. 使用時間と場所の明確なルール設定
具体的な方法:
- 平日と休日の最大利用時間を決める(例:平日1時間、休日2時間まで)
- 使用禁止の時間帯を設ける(例:食事中、就寝1時間前以降、朝の準備時間)
- スマホを使っていい場所を限定する(例:リビングのみOK、自室ではNG)
ルールは子どもと一緒に話し合って決めると、自主性が育ち守りやすくなります。また、ルールを視覚的に示したカレンダーや表を作成すると効果的です。
2. ペアレンタルコントロールの活用
スマホの機能や専用アプリを活用して、使用時間や利用できるアプリを制限しましょう。
おすすめの機能・アプリ:
- iPhoneの「スクリーンタイム」
- Androidの「デジタルウェルビーイング」「ファミリーリンク」
- 携帯キャリアが提供するフィルタリングサービス
総務省・文部科学省が主催している「e-ネットキャラバン」のウェブサイトでは、年齢に応じたフィルタリング設定のガイドも提供されています。
3. 家族全員でデジタルデトックスの時間を設ける
子どもだけでなく、家族全員でスマホから離れる時間を作ることが重要です。
実践アイデア:
- 週末の午後は「スマホフリーデー」にする
- 夕食後の2時間は全員がスマホを専用ボックスに入れる
- 月に1回、家族キャンプや自然体験などデジタル機器から離れる機会を作る
文部科学省の「情報モラル教育推進事業」の報告によれば、親子で一緒にデジタルデトックスに取り組んだ家庭では、子どものスマホ依存改善率が高かったという結果も出ています。
4. 代替活動の充実
スマホに費やしていた時間を、より創造的で社会的な活動に振り替えましょう。
おすすめの代替活動:
- 運動・スポーツ(サッカー、水泳、ダンスなど)
- 創作活動(料理、工作、楽器演奏など)
- 読書の習慣づけ
- ボードゲームや知育玩具での家族時間
特に、達成感を味わえる活動や、友達と一緒に楽しめる活動は、スマホの代わりになる喜びを提供できます。
5. コミュニケーションの質の向上
スマホ依存の背景には、現実世界でのコミュニケーション不足があることも多いです。
改善のポイント:
- 毎日15分以上の「対話の時間」を確保する
- 子どもの話を批判せずに聞く姿勢を持つ
- 家族の食事は可能な限り一緒にとる
- 子どもの興味(ゲームやSNSの話題も含む)に関心を持つ
日本小児科医会が発表した「子どもとメディアの問題に関する提言」によれば、親子の良質なコミュニケーションがある家庭では、子どものスマホ依存リスクが低下することが示されています。
6. 良質な睡眠環境の整備
睡眠とスマホ依存は密接な関係があります。健全な睡眠習慣を確立しましょう。
実践方法:
- 就寝時はスマホを子どもの部屋から出す(充電は別の部屋で)
- 就寝1時間前からはブルーライトを発する機器の使用を避ける
- 規則正しい就寝・起床時間を設定する
- 寝室は暗く、静かな環境に整える
厚生労働省による「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」では、就寝前のスマホ使用が睡眠の質と量に影響し、それが翌日の学習能力や情緒安定性に影響することが示されています。

7. 専門家のサポートを求める
対策を試みても改善が見られない場合は、専門家に相談することも検討しましょう。
相談先の例:
- スクールカウンセラー
- 小児科医・児童精神科医
- 教育委員会や自治体の相談窓口
- インターネット依存専門の医療機関(久里浜医療センターなど)
年齢別・適切なスマホ利用ルールの作り方

子どもの年齢や発達段階に応じた、適切なスマホルールを設定することが重要です。以下は年齢別のガイドラインです。
小学生低学年(6-8歳)
この年齢ではスマホの所持は原則として推奨されていません。どうしても必要な場合は:
- 利用は保護者と一緒に、1日30分以内
- インストールするアプリは保護者が完全管理
- YouTubeなどの動画サイトは「キッズモード」のみ
- オンラインゲームは原則として不可
日本小児科医会が発表した「子どもとメディアの問題に関する提言」の中で、「小学生のスマホ所持は必要最小限に」との見解を示しています。
小学生高学年(9-12歳)
- 平日は30-60分、休日は1-2時間程度の利用時間
- リビングなど共有スペースでの使用
- フィルタリングを必ず設定
- SNSの利用は保護者の監督下で
- 友達との連絡手段としての使用を優先
中学生(13-15歳)
- 学校の宿題や部活後の自由時間など、時間帯を限定
- 平日1-2時間、休日2-3時間程度の制限
- 就寝1時間前からは使用禁止
- SNSの利用ルールを明確に(投稿内容、友達追加のルールなど)
- 定期的なスマホの使用状況の振り返り面談
高校生(16-18歳)
- 自己管理能力を育てる方向でルールを設定
- 学習時間の確保を最優先
- SNSの危険性について繰り返し話し合う
- 就寝前の使用制限は継続
- 依存傾向があれば、ペアレンタルコントロールの活用
いずれの年齢でも、「ルールを守れたらご褒美」という報酬システムより、「基本的にはルールを守るもの」という前提での教育が効果的です。
子どものスマホ依存に関するよくある質問

Q1: スマホ依存は病気なのでしょうか?
A: 2019年、世界保健機関(WHO)は「ゲーム障害」を国際疾病分類に追加し、一種の精神疾患として認定しました。スマホ依存自体は正式な診断名ではありませんが、「インターネット依存」や「ゲーム障害」の一形態として専門的な治療対象となることもあります。長期間にわたり、生活に著しい支障があるケースでは、専門医への相談が推奨されます。
Q2: 何時間以上の使用で依存と判断すべきですか?
A: 単純に時間だけで判断することはできませんが総務省の「青少年のインターネット利用と依存傾向に関する調査」では、平日2時間以上、休日4時間以上のスマホ使用は「ハイリスク」と位置付けられています。ただし、時間だけでなく、使用を制限したときの反応や日常生活への影響も総合的に判断する必要があります。
Q3: 友達がみんな持っているのに、うちだけ厳しいルールを設けても大丈夫?
A: 「友達は皆持っている」という主張は多くの親が直面する課題です。しかし、内閣府の調査によれば、実際には保護者が思うほど所持率は高くなく、特に小学生では厳しいルールを設けている家庭も少なくありません。各家庭の価値観や教育方針に基づいたルール設定が重要です。また、ルールの理由を丁寧に説明することで子どもの理解を得やすくなります。
Q4: 子どものプライバシーを尊重しながら、どこまで管理すべき?
A: 年齢が上がるにつれて、プライバシーへの配慮は重要になります。中学生以上では、「何を見ているか」よりも「どれくらいの時間使っているか」「睡眠や学習に影響がないか」などを中心に管理するとよいでしょう。また、定期的な対話を通じてSNSのリスクについて話し合うなど、信頼関係を基盤とした見守りが効果的です。
Q5: 一度依存状態になった場合、回復は可能ですか?
A: 適切な介入により、スマホ依存からの回復は十分可能です。厚生労働省の「ゲーム依存(ゲーム行動症)・ネット依存の全国調査について」によれば、家族のサポートと専門的な支援を組み合わせた場合、多くのケースで症状の改善が見られています。特に早期発見・早期介入が重要で、依存の兆候が見られた段階で対策を講じることが効果的です。
まとめ:バランスのとれたデジタルライフを目指して

デジタル社会で育つ現代の子どもたちにとって、スマートフォンとの付き合い方を学ぶことは、重要な「生きる力」の一部となっています。スマホを完全に排除するのではなく、上手に活用しながらもバランスを保つ方法を家族で一緒に考えていくことが大切です。
本記事でご紹介した「10の警告兆候」と「7つの対策法」を参考に、お子さんの状況に合った対応を進めてください。子どものデジタルリテラシーを育てることは、未来を生きる力を育てることにつながります。
何よりも重要なのは、スマホの問題を通じて親子のコミュニケーションを深め、信頼関係を構築していくことです。「ダメ」と禁止するだけでなく、なぜルールが必要なのかを子ども自身が理解できるよう、対話を重ねていきましょう。
最後に、この問題はすべての保護者が直面する共通の課題です。一人で抱え込まず、学校や専門家、また同じ悩みを持つ保護者同士でつながり、情報交換することも有効な手段です。
子どもたちがデジタル世界とリアル世界の両方で健やかに成長できるよう、私たち大人がサポートしていきましょう。