「自分に自信がない」「自己肯定感が低い」という言葉をよく耳にしますが、これらは同じことを指しているのでしょうか?実は、自己肯定感と自信(自己効力感)は似ているようで異なる概念です。「自分を認められない」と感じることと「自分の能力に自信がない」ことは、根本的に異なるメカニズムから生じています。
この記事でわかること:この記事では、自己肯定感と自己効力感(自信)の明確な違いを解説し、両方がどのように関連し合い、人生の質に影響を与えるのかを探ります。また、それぞれをバランス良く高めるための具体的な方法と、日常生活で実践できるエクササイズをご紹介します。
自己肯定感と自己効力感(自信)の定義と違い

自己肯定感とは
自己肯定感とは、「あるがままの自分を受け入れ、価値ある存在として認める感覚」のことです。これは、自分の能力や成果に関係なく、自分という存在そのものを肯定的に受け止める心の状態を指します。
心理学者のカール・ロジャースは、自己肯定感を「無条件の積極的な関心(unconditional positive regard)」と表現し、人間の精神的健康の基盤として重要視しました(Rogers, 1961)。自己肯定感の高い人は、失敗や批判を受けても自分の価値が揺らぐことが少なく、精神的な安定感があります。
自己効力感(自信)とは
一方、自己効力感は「特定の課題や状況に対処する能力への確信」を指します。これは、心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された概念で、「自分はこの課題をうまくこなせる」という自信や能力への信頼感のことです。
自己効力感は特定の領域や状況に対する能力の認識であり、経験や成功体験によって形成されます。例えば、仕事の自信はあっても、対人関係の自信がないという場合もあります。
両者の決定的な違い
自己肯定感 | 自己効力感(自信) |
---|---|
「私は価値ある人間だ」という存在への肯定 | 「私はこれができる」という能力への確信 |
無条件:能力や成果に関わらず | 条件付き:特定の技能や経験に基づく |
全般的:人格全体に関わる | 領域特異的:特定の状況や課題に関わる |
安定的:短期間では変化しにくい | 可変的:経験によって比較的早く変化する |
臨床心理士の諸富祥彦氏は著書『イラストでわかる自己肯定感をのばす育て方』の中で、「自己肯定感は自分の存在や生き方そのものを肯定する感覚であり、特定のスキルに対する自信(自己効力感)とは区別すべきもの」と述べています。
実際の例を挙げると:
- 高い自己効力感・低い自己肯定感:仕事では優秀な成果を上げているが「自分は人間として価値がない」と感じている状態
- 高い自己肯定感・低い自己効力感:「自分は大切な存在だ」と感じつつも、特定のスキルや能力に自信がない状態
自己肯定感と自己効力感の関係性

お互いにどう影響し合うのか
自己肯定感と自己効力感は別の概念ですが、密接に関連しています。国内外の複数の研究では、長期的に見ると両者は相互に影響し合うことが示されています(高井, 2011)。
具体的には:
- 自己肯定感が高い人は、新しい挑戦に積極的になりやすく、結果として自己効力感も高まりやすい
- 自己効力感の経験(成功体験)が積み重なると、「私にはできることがある」という認識から自己肯定感も強化される
しかし、これらの関係性は必ずしも直線的ではありません。例えば、仕事でいくら成功(自己効力感の向上)しても、自己肯定感が低いままの場合もあります。これは「インポスター症候群」(自分の成功を偶然や運によるものだと考え、自分の能力を認められない心理状態)として知られています。
バランスの重要性
両方をバランスよく持つことが精神的健康や幸福感につながるとされています。複数の精神医学研究によると、自己肯定感と自己効力感がともに高い人は、ストレス耐性が高く、うつ病などの精神疾患のリスクが低いことが報告されています。
バランスが崩れた場合の影響:
- 自己肯定感が低く、自己効力感だけが高い場合:完璧主義や燃え尽き症候群のリスクが高まる
- 自己効力感が低く、自己肯定感だけが高い場合:潜在能力を発揮できず、成長の機会を逃す可能性がある
自己肯定感を高める具体的な方法

内面からのアプローチ
- 自己対話の見直し
- 自己批判的な内部の声に気づき、より compassionate(思いやりのある)な声に置き換える練習をする
- 例:「私はダメだ」→「誰でも失敗することがある。次に活かそう」
- 自分の感情を受け入れる
- ネガティブな感情も含めて、自分の感情を否定せずに観察する
- マインドフルネス瞑想を取り入れる(1日5分から始める)
- 「~すべき」から解放される
- 完璧主義や社会的な「べき論」から距離を置く
- 認知行動療法の研究では、「~すべき」思考(must思考)が自己肯定感を低下させることが示されています
行動からのアプローチ
- 小さな自己肯定の習慣化
- 毎日、自分を認める瞬間を作る(日記や声に出すなど)
- 例:「今日の自分のここが良かった」と3つ挙げる習慣
- 自己受容のワーク
- 自分の長所だけでなく短所も含めて書き出し、「これが今の私」と受け入れる
- セルフコンパッション(自己への思いやり)を高めるエクササイズ
- 境界線を設定する
- 自分の価値観や限界を尊重し、NOと言える関係性を築く
- 心理学者のヘンリー・クラウドとジョン・タウンゼントによれば、健全な境界線の設定は自己肯定感の基盤となります。
自己効力感(自信)を高める実践的な方法

成功体験を積み重ねる
- スモールステップ法
- 達成可能な小さな目標を設定し、成功体験を積み重ねる
- 例:5分間の読書から始め、徐々に時間を延ばしていく
- スキルの習得と向上
- 自分が興味を持てる分野で継続的に学習する
- 定期的に自分の成長を振り返り、記録する
- コンフォートゾーンの少しだけ外に出る
- 挑戦しつつも、過度なストレスにならない程度の新しい経験を持つ
- 適度な「ストレッチゾーン」での活動が自己効力感を高める
周囲の力を借りる
- ロールモデルの観察
- 自分が目指す分野で活躍している人の行動を観察し、学ぶ
- メンターやコーチからのアドバイスを受ける
- フィードバックを求める
- 信頼できる人からの具体的なフィードバックを定期的に受ける
- 批判ではなく、建設的なアドバイスを求める
- 成功をシェアする
- 仲間と目標や成功体験を共有し、相互にサポートする
- コミュニティやグループ活動への参加
両方をバランス良く高めるための統合的アプローチ

日常生活に取り入れられる実践
- 強みと価値観の明確化
- 自分の強みを知るためのストレングスファインダーなどのアセスメントを活用
- 自分の価値観を明確にし、それに沿った目標設定をする
- 「できた」と「ありのまま」のバランス
- 成果を追求しつつも、プロセスや存在そのものも大切にする
- 例:「今日は目標達成できなかったが、挑戦した自分を認める」
- 自己認識の向上
- 自己肯定感と自己効力感の状態を定期的にチェックする
- 日記やリフレクションの習慣化
- カウンセリングやコーチングなど、専門家のサポートを受ける
科学的に効果が示されているエクササイズ
- グラティチュード・プラクティス(感謝の実践)
- 毎日3つの感謝できることを書き出す習慣
- エモンズとマカロー(2003)の研究では、8週間の感謝の日記で自己肯定感が有意に向上することが示されています
- ポジティブイベント日記
- 日々の小さな成功や肯定的な出来事を記録する
- 具体的に「何がうまくいったか」「なぜうまくいったか」を省察する
- マインドセット変革ワーク
- 「成長マインドセット」(能力は努力で伸びるという考え方)の養成
- スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック博士の研究に基づく実践
自己肯定感と自己効力感のバランスが崩れがちな状況とその対処法

危険信号を認識する
- 完璧主義のわな
- 徴候:「100点か0点」の思考、小さなミスも許せない
- 対処法:「良い成績」と「自分の価値」を切り離す意識的な実践
- 社会的比較の過剰
- 徴候:SNSで他者と比べて落ち込む、「もっと」の呪縛
- 対処法:SNSの使用時間制限、自分の成長のみに焦点を当てる
- フィードバックへの過敏さ
- 徴候:批判を受けると自分全体が否定された気分になる
- 対処法:フィードバックを「行動」に対するものとして受け止める訓練
長期的な維持のためのヒント
- 自分への思いやりを忘れない
- セルフケアの習慣化(十分な睡眠、適度な運動、健康的な食事)
- 心理的安全性が確保されたコミュニティに所属する
- 定期的な振り返りの時間を設ける
- 四半期ごとの自己評価セッション
- 強み・成功・課題・価値観の再確認
- プロフェッショナルなサポートの活用
- 必要に応じてカウンセラーやコーチに相談する
- メンタルヘルスのケアは弱さではなく強さの表れ
まとめ:自己肯定感と自己効力感のバランスある成長

この記事では、自己肯定感と自己効力感(自信)の違いを明確にし、両方をバランス良く高めるための具体的な方法をご紹介しました。
自己肯定感は「あるがままの自分を価値ある存在として受け入れる感覚」であり、自己効力感は「特定の課題に対処できる能力への確信」です。この二つは別々の概念ですが、相互に影響し合い、どちらも私たちの幸福感や精神的健康に大きく関わっています。
自己肯定感を高めるには、自己対話の見直しや自分の感情の受容が重要です。一方、自己効力感を高めるには、小さな成功体験の積み重ねやスキルの習得・向上が効果的です。
両方をバランス良く育むことで、「自分は価値ある存在だ」という根本的な安心感を持ちながら、「自分にはできることがある」という自信も持ち合わせることができます。これにより、失敗を恐れずに挑戦し、困難にも柔軟に対応できる強靭さが育まれるのです。
最後に、自己肯定感と自己効力感を高めることは一朝一夕にはいきません。継続的な実践と自己への思いやりを忘れずに、長い目で見て自分自身との関係性を育んでいきましょう。
今日から、この記事でご紹介したエクササイズのうち一つでも取り入れてみることで、あなたの中で変化が始まるかもしれません。