あなたは何気ない言動で、接客スタッフを傷つけているかもしれません。「自分はカスハラなんてしていない」と思っていても、実は無意識のうちに加害者になっていることもあります。本記事では、カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義から実例、そして自己診断できるチェックリスト20項目を紹介。知らず知らずのうちに相手を傷つけない、より良い消費者と事業者の関係づくりのヒントをお伝えします。
この記事でわかること:カスハラの定義・種類から、自己診断チェックリスト20項目、防止策まで解説。知らぬ間に加害者になっていないか確認し、消費者として適切な行動を学べる内容です。
カスハラとは?定義と社会問題化の背景

カスハラの定義と基本知識
カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)とは、顧客や消費者が、接客業務に従事する従業員に対して行う、不当な要求や理不尽な言動、威圧的な態度などのハラスメント行為を指します。
日本経済産業省の定義によれば、「顧客等が、サービスを受ける際に接する従業員等に対して、一般的に許容される範囲を超えた負担を与える、悪質で 執拗な行為」とされています1。
カスハラを構成する3つの要素
カスハラかどうかを判断する際の重要な要素は以下の3点です:
- 一般的許容範囲の逸脱:社会通念上、許容される範囲を明らかに超えた言動であること
- 悪質性:相手を傷つける意図がある、または無自覚でも結果として深刻な精神的苦痛を与えるもの
- 執拗性:一度きりではなく、繰り返し行われる、または長時間にわたって継続する行為
カスハラと正当なクレームの違い
カスハラと正当なクレームは明確に区別される必要があります:
正当なクレーム | カスハラ |
---|---|
商品・サービスの不備を指摘 冷静に問題点を伝える 適切な対応や補償を求める 担当者を尊重する態度 問題解決を目的とする | 人格を否定する発言 感情的に怒鳴る、威圧する 過剰な要求や無理難題 担当者を見下す態度 相手を困らせることを目的とする |
日本小売業協会の調査(2023年)によれば、実際のクレーム対応の中で約30%がカスハラに該当するとされています。
近年ではSNSの普及により、カスハラ行為が可視化され、社会問題として認識されるようになりました。また、新型コロナウイルスの流行に伴い、マスク着用や消毒などの感染対策をめぐるトラブルも増加し、カスハラへの社会的関心が高まっています。
カスハラが社会問題として注目される理由
カスハラが社会問題として注目される背景には、以下のような要因があります:
- メンタルヘルスへの影響:接客業従事者の精神的健康被害が深刻化
- 人材確保の困難:カスハラ頻発業種からの人材流出
- 生産性の低下:対応に時間を取られることによる業務効率の悪化
- 条例制定の動き:自治体レベルでのカスハラ対策条例の制定
東京商工会議所の調査(2023年)によれば、接客業に従事する従業員の約78%が何らかのカスハラを経験したと回答しており、その影響は看過できない段階に達しています。
カスハラの種類と具体的な事例

カスハラの主な5つのタイプ
カスハラは大きく分けて以下の5つのタイプに分類されます:
- 暴言型:罵倒、侮辱、脅し文句など
- 理不尽要求型:明らかに常識を超えた要求
- 説教型:長時間にわたる一方的な叱責や指導
- セクハラ型:性的な言動によるハラスメント
- SNS投稿型:接客対応への不満をSNSで拡散
実際にあったカスハラの事例
実際に報告されているカスハラの具体例をいくつか紹介します:
- 「お前のような無能は首にされた方がいい」と大声で叫ぶ
- 商品の返品期限が過ぎているにもかかわらず、「お客様の言うことが聞けないのか」と返金を要求
- 「マニュアル通りの対応しかできないのか」と30分以上説教
- スタッフの容姿に関するコメントを執拗に繰り返す
- 接客の様子を無断で撮影し、誇張した内容と共にSNSに投稿
日本コンタクトセンター協会の報告(2024年)によれば、特に繁忙期や人手不足の時期にカスハラ事例が増加する傾向があるとされています。
カスハラに関する法律と条例

カスハラに関連する法的枠組み
カスハラに特化した全国レベルの法律はまだ制定されていませんが、以下のような法的枠組みが関連しています:
- 刑法:暴行、脅迫、名誉毀損、侮辱罪など
- 労働施策総合推進法:職場におけるハラスメント対策
- 消費者基本法:消費者の責務として「知識と理解を深め、自主的かつ合理的に行動する」ことを規定
自治体によるカスハラ防止
地方自治体レベルでは、カスハラ防止を目的とした動きが進んでいます:
- 東京都:2025年4月1日「「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」施行
- 大阪府:中小企業カスタマーハラスメント対策促進事業
- 三重県 桑名市:桑名市カスタマーハラスメント防止条例賛成多数で成立
東京都の条例では、カスハラ行為を行った消費者への指導や勧告が可能となり、従業員保護の法的根拠が整備されました。
カスハラ加害者になっていないかのセルフチェックリスト20項目

チェックリストの使い方
以下の項目について、自分の行動や考え方に当てはまるものがあるかチェックしてみてください。該当する項目が多いほど、無意識のうちにカスハラ加害者になっている可能性があります。
①日常的な態度に関するチェック項目
- □ 「お客様は神様」という言葉を、自分の要求を通すために使ったことがある
- □ 混雑時や締め切り間際に来店・問い合わせしても、すぐに対応してもらえて当然だと思う
- □ スタッフの名前を聞いて、クレームを入れる際に名指しすることがある
- □ スタッフに対して敬語を使わず、タメ口や命令口調で話すことが多い
- □ 「前回来た時は〇〇してもらえた」と、例外的対応を常態化させようとする
②要求・クレーム時のチェック項目
- □ 自分の要求が通らないと、「店長を呼べ」「上司を出せ」とすぐに言う
- □ 「二度と来ない」「SNSで拡散する」などと脅しめいた発言をする
- □ 明らかに自分に非があるケースでも、謝罪や補償を求める
- □ 「お宅の会社の株主なんだけど」「〇〇(有名人や権力者)と親しいんだけど」など、自分の立場を誇示する
- □ 担当者の対応に不満があると、感情的になって声を荒げる
③価値観・意識に関するチェック項目
- □ サービス業の人は自分に尽くして当然だと思っている
- □ 「給料をもらっているのだから」と、無理な要求も受け入れるべきだと考えている
- □ マニュアル通りの対応をされると、融通が利かないと感じて腹が立つ
- □ スタッフのミスに対して、必要以上に責めることがある
- □ 「自分はお金を払っている側」という意識が強い
④特定状況でのチェック項目
- □ 飲食店でのサービスに対して、チップや心づけではなく値引きを要求する
- □ 営業時間外の対応を求めたり、閉店間際に長居したりする
- □ 接客スタッフの外見や話し方について、必要以上に言及する
- □ サービスへの不満をその場で伝えず、後からSNSで一方的に批判する
- □ 他の客がいる前で、わざと大きな声で文句を言うことがある
チェックが5つ以上付いた方は、無意識のうちにカスハラ傾向があるかもしれません。10個以上該当する場合は、自分の消費者としての姿勢を見直す時期かもしれません。
カスハラ防止のための5つの心がけ

カスハラを防止するために、消費者として心がけたい5つのポイントを紹介します:
1. 相手も一人の人間であることを忘れない
接客スタッフも一人の人間です。疲れや体調不良を抱えながら働いていることもあります。「お客様は神様」という考え方は、すでに時代遅れになりつつあります。国際おもてなし協会の調査では、顧客満足度の高い企業ほど、対等なパートナーシップを重視する傾向があることが分かっています。
2. 自分の要求は合理的か考える習慣をつける
要求を伝える前に、「これは合理的な範囲内だろうか?」と一度立ち止まって考えましょう。消費者権利センターによれば、「合理的な要求」とは以下の3つの条件を満たすものとされています:
- 法律や規則の範囲内である
- 他の顧客のサービス享受を妨げない
- 従業員に過度な負担を強いない
3. 感情的にならず、冷静に対話する
不満や要望がある場合も、感情的にならず冷静に伝えることが大切です。怒りの感情をコントロールするためには、以下のような方法が効果的です:
- 深呼吸をして心を落ち着かせる
- 「私は〇〇と感じています」という「I メッセージ」で伝える
- 問題の解決策を一緒に考える姿勢を持つ

4. 相手の立場や制約を理解する
サービス提供者には様々な制約があります。会社のルールやマニュアル、法的規制などです。これらの制約を理解し、無理な要求をしないよう心がけましょう。
ココロバランス研究所の調査によれば、「ルールの例外対応」を求めるクレームが全体の約40%を占めているとされています。しかし、例外対応は他の顧客との公平性を損なう可能性があることを認識すべきです。
5. 感謝の気持ちを表現する
良いサービスを受けたら、感謝の言葉を伝えましょう。「ありがとう」の一言が、接客スタッフのモチベーションになります。接客業従事者へのアンケートでは、「お客様からの感謝の言葉」が仕事のやりがいとして最も多く挙げられています。
カスハラ被害に遭ったことがある方へのアドバイス

もし接客業に従事していて、カスハラ被害に遭ったことがある場合は、以下の対応を検討してください:
- 記録を取る:日時、場所、相手の特徴、言動の内容を記録
- 上司や同僚に報告:一人で抱え込まず、組織として対応
- 毅然とした態度:過度な要求には「申し訳ありませんが、それはできません」と明確に伝える
- 専門機関への相談:深刻な場合は労働局や警察への相談も検討
厚生労働省は「職場におけるハラスメント相談窓口」を設置しており、カスハラ被害の相談も受け付けています。
まとめ:より良い消費者と事業者の関係づくりのために

カスハラは、消費者と事業者の健全な関係を損なう行為です。本記事で紹介したセルフチェックリストや心がけを参考に、自分自身の言動を振り返ってみてください。
消費者と事業者は対立する関係ではなく、互いに尊重し合うパートナーです。日本消費者協会が提唱する「新しい消費者像」は、「権利を主張するだけでなく、責任も果たす成熟した消費者」とされています。
カスハラのない社会づくりは、私たち一人ひとりの意識と行動から始まります。明日からの買い物や外食、様々なサービス利用の場面で、この記事の内容を思い出していただければ幸いです。